2009年06月30日

アリ塚か?

ミズゴケが生育している湿原には、ドーム状に盛り上がった地形がぼこぼこと林立している。
この地形は植物が作り出したものだ。カヤツリグサ科の草本やツツジ科の低木などを足場として、ミズゴケが滞水面より上に成長していった結果である。この盛り上がったところには、しばしばアリが棲んでいる。湿原に生息する生き物は、滞水している水の水位変動にどう対応するかということが問題になってくるが、滞水面より高く盛り上がっているところは水位変動の影響をあまり受けない。よってこの盛り上がり地形は、水生昆虫ではないアリが棲む場所として格好の場所である。


ミズゴケ湿原の盛り上がり地形。滞水面からの高さは、およそ3、40cm。

先日、ミズゴケの成長量を測定するための仕掛けを設置するために、北海道の釧路湿原に行ってきた。もちろん、盛り上がり地形を作るミズゴケも調査対象である。そこで、ここに棲んでいる、というか巣を作っているアリに散々悩まされた。湿原での調査では蚊や虻に悩まされることはよくあるが、アリにここまでやられるとは思いもよらなかった。盛り上がり地形を作るミズゴケに、成長量を測定するための仕掛けを取り付けようとすると、ぞろぞろとアリがミズゴケの表面に出てくるのだ。アリも自分たちの棲み処を守るために必死なのだろう。いつの間にか手がアリだらけになっていた。アリに強く息を吹きかけてアリをどこかへ飛ばしても、次から次へとアリがやってくるのだ。そのうち、袖口からシャツの中に入り込んだアリが背中をジリっと噛む。痛さの度合いはそれほどでもないが、とても不快だ。それが作業をしているとき、ずーっと続いた。自分の体から払い除けようとしてアリを何匹か圧死させてしまったが、その代償としてアリに体を10箇所以上噛まれた。ちょっと腫れていて、とてもかゆい。アリにこんなに噛まれたのは初めてである。でも、カナダの北極で蚊がブンブン飛び回るなかでテント生活を送ったときよりは、ましかもしれない。


湿原の盛り上がり地形を作るミズゴケであり、その盛り上がったところに生育するチャミズゴケ。
ここにもアリが棲んでいる。

  

Posted by 上野健 at 22:53

2009年06月27日

bonsai

コケと盆栽は密接な関係にあると思うが、今回はその話ではない。英語で盆栽のことをそのままbonsaiという。昨年アラスカに行った際、とある湿原に立てられていた案内板にそのbonsaiという文字を見つけた。bonsai(盆栽)という言葉がアメリカで普通に使われていることを実感した。


湿原に生える矮性化した植物の特徴を盆栽(bonsai)に例えて説明している。


盆栽の美
盆栽家は美しいミニチュアの樹を創り出すために、丹念に剪定し矮性化した樹を形づくる。泥炭湿原であるここでは、松類が自然に剪定、整形され、簡単に盆栽芸術家のインスピレーションを受けたものとなりうる。過湿、酸性、貧栄養の土壌は植物の成長を遅くするので、樹齢400年にもなる自然に剪定された松は、直径わずか5インチ(1インチ=2.54cm)、高さ8フィート(1フィート=30.48cm)くらいにしかならないだろう。


実際の湿原の様子1


実際の湿原の様子2


幾何学模様のようにびっしりと空間を埋めるミズゴケの蘚冠。ミズゴケは泥炭湿原を作る植物であり、湿原の過湿、酸性条件を作り出す。Sphagnum balticum???  

Posted by 上野健 at 23:56

2009年06月16日

コケの季節

梅雨に入りました。コケの季節です。
雨はコケの生命を発露させます。
雨に濡れるコケたちよ、どうかこの一面コンクリートで覆われた空間を浄化しておくれ。


ハマキゴケのコロニー(東京、池袋近く)。  

Posted by 上野健 at 21:40

2009年06月13日

低地vs高山

当たり前のことだが、標高400m(低地)と標高2700m(高山)では環境条件が全く異なる。
ところが、植物によっては同じ種が低地から高山まで分布することがある。コケ植物では決して珍しいことではない。下の写真に示されるミズシダゴケもその一つだ。
ミズシダゴケは、よくdesiccation intorelance species(脱水耐性をもたない種)として扱われ、脱水耐性をもつ種と比較するための研究材料として使われている。脱水耐性をもたないというのがどの程度か分からないが、確かにその生育地は水がしみ出したり、湧き出ている場所が多い。下の写真に写っている低地と高山のミズシダゴケの生育場所も共通して水が湧き出ている場所だった。かといって、同じような環境条件で生育しているわけではないのだ。気温、紫外線量、生育期間、積雪量、二酸化炭素量など、異なると予想される環境条件はたくさん挙げられ、高山ほど植物の生育条件は厳しい。ミズシダゴケは、高山環境にどのように対応しているのだろうか?とても興味がそそられるテーマである。


標高約2700m(南アルプス・間ノ岳)でみられたミズシダゴケのコロニー。


上記コロニーのアップ。



標高約400m(東京・桧原村)でみられたミズシダゴケのコロニー。


上記コロニーのアップ。


概観して、外形に何か違いがあります?






  

Posted by 上野健 at 12:26

2009年06月02日

車上のコケ

先日、埼玉県秩父市にある山林に行く機会があり、そこで苔むした車を見つけた。
小さな清流沿いにある林道脇に放置された車である。どのくらいの年月放置されているのだろうか。
もし、車体にコケが生えていなかったら、この車は不快極まりない存在であったのだろうが、コケが生えていることにより、そんなネガティブな感情は湧いてこなかった。それどころか、何て綺麗なんだ、と思わず呟いた。その時ちょうど雨が降っており、コケに水分が十分に供給されている状態だったことが幸いしたのかもしれないが、コケの力、恐るべしである。


苔むした車の全景。


角度を変えて、車の全景。


ボンネット部分に生えているコケ。ツヤゴケの一種。


フロントガラスは入っていませんが、
それが収まる部分の両脇にある支柱(フレーム)部分に生えているコケ。
これまた、ツヤゴケの一種。


屋根に近い、リアの車体フレーム部分にコケが生えている様子。
種類は、上の写真と同じ。


その下側に、コケが生えている様子。セン類の他に、タイ類も着いてます。
セン類はツヤゴケの一種。タイ類は分かりません。


サイドドアの面に着生するタイ類。地衣類もみられます。


車のなかにもコケが生えていました。


再び、車の全景。  

Posted by 上野健 at 22:53