2009年02月24日

コケの本の紹介

ここでいうコケの本とは、コケだけを取り扱った本に限らず、本の中の一部にコケの記事があったり、コケの写真があったり、表紙や裏表紙にコケの写真が使われたりしている本を指します。そんなコケの本のなかで、私がこころ惹かれる本を機会があれば少しずつ紹介していきたいと思います。
今回は、毎日新聞社のムック本「Planted #9(2009)」です。

http://books.mainichi.co.jp/2008/12/planted-9-2009-.html
この本を知るまで、毎日ムックPlanted の存在を知りませんでした。編集長として名前が挙がっているのは、ボタニカル・ライフという著書もあるいとうせいこう氏でした。その最新号になります。この本は昨年の12月に既に出版されていたみたいですが、この前、本屋さんでたまたまみかけ、表紙のコケの写真に惹かれて思わず手に取りました。そしたら、中には「コケの図鑑」という特集記事があり、コケの聖地の一つだと私が勝手に思っている屋久島や熊野の記事もありました。すぐに買わせていただきました。コケの特集記事は、「苔とあるく」の著者である田中美穂さんが主なところの文章を書かれていました。いいです。コケ好きの方なら、表紙を眺めているだけでも幸せな気分になれるんじゃないでしょうか。表紙のコケの種類は何ですか?という野暮な質問はしないでください。多くの人は気にも留めない小さな存在なんですけど、全体を通して、コケの存在感の大きさを感じました。おススメです。980円です。  

Posted by 上野健 at 10:45

2009年02月17日

水の中のコケ

コケにとって、水が潤沢にある場所というのは生育する上で理想的な環境といえる。
だが、水があり過ぎるとそれが反ってコケの生育を阻害をすることがある。体の表面で水とガスの両方をやりとりしているコケの宿命であろう。生物と環境条件との関係でよく言われることであるが、「過ぎたるは及ばざるが如し」というのが、ここでもみられる。それでも生物はしぶとく、逞しく生きていくのである。コケも同じですね。


ノルウェー北極・スピッツベルゲン島ニーオルスン氷河後退域にある池。池といっても水深が20cmくらいで、水たまりと言った方がいいかもしれない。


上に示した池のなかに生育する唯一のコケ、Scorpidium scorpioides。このコケは北極域の湿地に生育しており、たまに水の中にも生育している。日本に生育していないので和名がついていないが、和名を付けるなら、「サソリゴケ」かな。植物体は長く分枝しているが、アクティブに活動している部分は先端部数ミリの緑色の部分である。空気(二酸化炭素)不足であろう。光も不足しているのかもしれない。


アラスカ・ジュノーにある山地斜面ミズゴケ湿原でみられたハート型の池塘。まあ、見方によっていろいろですけど・・・。


上の池塘の中に生育するミズゴケ。種名は未同定。枝をみると、徒長し、先端部のみアクティブな細胞が残っているようにみえる。これもまた、空気(二酸化炭素)不足が生じているのだろう。
  

Posted by 上野健 at 12:28

2009年02月10日

コケのある風景~その3

「なぜ、山に登るのですか?」と問われれば、「そこにコケがあるから」と答える。
コケの調査や採集でこれまで多くの山に登ってきた。登山中の喉の渇きを潤してくれる水のおいしさは、私が今さら言うまでもない。登山道に水場があり、湧き水や浸みだし水をその場で飲むなら、さらにおいしく感じるだろうし、水場が苔むしていたら、そこはもう私にとっての最上のヒーリング空間となる。写真は、南アルプスの広河原から白根御池小屋に向かう途中の樹林帯にある水場。


コケは維管束植物とは趣の違った緑を提供している。



ここに優占的に生育するのは、ミズシダゴケ(中央)とオクヤマハリガネゴケ(両脇)。



苔むした岩のくぼ地に溜まった水。小鳥の水浴び場にもなるのだろうか・・・。



ミズシダゴケのコロニーの中を水が流れる。



水濡れるオクヤマハリガネゴケの胞子体。  

Posted by 上野健 at 12:13

2009年02月03日

コケのある風景~その2

大学は今、学期末のテストや成績処理の時期である。
学生の提出したレポートを読んでいると、都会に住む者の周りには自然がないという旨の記述に何度も出くわした。確かに、草木にばかり目がいっていると、都会の人々の周りに存在するのはほとんどが人為的に植えられた植物であり、そこに自然というものを感じにくいかもしれない。だが、コケ植物に意識が向いていると、都会にも至るところに自然の「森」が存在しているのがわかる。コケ植物は、他の植物がなかなか生育できない無機的な場所を、精気あふれる空間に変える役割をもっているのかもしれない。
以下の写真は、都電荒川線の線路沿いに生えていたコケですが、都会のどこにでもあるありふれた風景だと思います。



レールとアスファルトの間にできたすき間に生えるギンゴケ。


レールの周りに大きなコロニーを形成するギンゴケとホソウリゴケ1


レールの周りに大きなコロニーを形成するギンゴケとホソウリゴケ2  

Posted by 上野健 at 11:54