2008年07月20日

銭コケ、杉コケ、萬年草(2)

続き。
次に、スギゴケを見てみよう。
以前、このブログで書いたかもしれないが、スギゴケという和名には、Polytrichum juniperinumという学名が当てられる。江戸時代に使われていたスギゴケというコケの呼び名がPolytrichum juniperinumそのものを指していたかというと、そう厳密なものではなかったであろう。特定のコケを指す名称ではあったのだが、上記の種に加えて、ウマスギゴケPolyrtichum commune、オオスギゴケ Polytrichastrum formosum など、似たようなスギゴケの仲間を特に区別していなかったものと思われる。区別できなかっただろうし、区別する必要もなかっただろう。スギゴケという名称が複数種に対して使われていた可能性が大いにあるという断り書きをして、ゼニゴケと同じように本草書を辿りたい(そういえば、ゼニゴケもそうかなぁ・・・)。
スギゴケという名称は、ゼニゴケの場合と同じで、松岡玄達の書いた「怡顔斎苔品」(1758年)に初めて登場する。スギゴケは、水苔類、石苔類、樹苔類、地苔類のうち、地苔類のなかの「土馬騣」という苔を説明する際に、その俗称として出てくる。「土馬騣(土馬鬃、俗名杉コケ陰湿ノ地ニ生ス)」である。そして、これを起点に、漢語の土馬騣=スギゴケという図式が固まっていき、苔類を記載する本草書には必ずと言っていいほど登場するようになる。小野蘭山の「本草綱目啓蒙」(1803-6年)の苔類という項目を見ても、「土馬騣(スギゴケ、山中陰湿処ニ多ク生ジテ地ニ満。採テ茶室ノ庭ニウユ)」とある。茶室の庭に植えるとあるので、土馬騣(スギゴケ)というのは、一般的に苔庭に植えられるウマスギゴケやオオスギゴケを指しているのかもしれない。また、土馬騣という漢語のなかにある馬という字が気になる。明治以降に作られたウマスギゴケという和名はここから来ているのではないか。調べることは尽きない。ちなみに、広辞苑(第五版)でスギゴケを引くと、最後に土馬騌と記されている。騣と騌の字は同じ音をもっており、土馬騣および土馬騌はトマソウと読む。
コウヤノマンネングサは、次の回へ。





Posted by 上野健 at 23:54

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